三題噺で文章力トレーニング お題「消しゴム、和室、冬」
お題 「消しゴム、和室、冬」
約1,000文字
12月もすでに下旬。昨晩から降り出した雪は辺りを白く染めている。
「雪掻きは、まだしなくても大丈夫だな」
窓から外を眺め、言い訳するようにつぶやく。
朝の雪掻きは、小さいころから俺の当番だ。
おもちゃに釣られて約束したのを今では後悔している。
高3の受験シーズンだというのに、誰も代わってくれる気はないらしい。
居間兼勉強部屋の和室は寒い。
白い息を吐きながら、ストーブとコタツのスイッチを入れてまわる。
勉強道具をテーブルに広げ、暖まり始めたこたつに足を入れると、生暖かい毛玉が足先に触れる。飼い猫のユキだ。
「オア“ア”ア“~」
「はいはい、おはようさん」
真っ白い毛にちなんでユキと名付けたのだが、寒さが大の苦手で、冬の間はこたつに住んでいると言っても過言ではない。
足でユキをくすぐりながら、数式を解いていく。
ガムを噛むと集中力が上がるというが、意外と猫でも代わりになるらしい。
この勉強法をマスターするまでにはそれなりの試行錯誤があった。
猫はとにかく邪魔をするものだ。テキストやノートの上に乗るし、カバンで爪とぎをしたりもする。今は暖かいこたつの中で、足で転がされてのどを鳴らしている。
俺は集中できるし、ユキも満足そうだ。これぞwin-winである。
問題集に取り掛かり1時間ほど経過した頃。
「あ」
ふいに腕が当たり、消しゴムがテーブルから転げ落ちた。
拾おうと伸ばした手が触れる直前、白い塊が飛び出してきて消しゴムを遠くに弾き飛ばしてしまった。
「こーら、ユーーーキーーー」
唯一残った野生なのか、ユキは落ちた物には素早く反応する。
そこから先は俊敏な手さばき(足さばき?)で、ホッケー選手もかくやと言わんばかりのシュートを決めるのである。
こたつの中からでも音を聞きつけて飛び出すのだから恐れ入る。
消しゴムは壁際まで転がっていき、こたつに入ったままでは手が届かない。
文句を言ってやろうかとユキに目を向けるも、「寒い寒い」と言わんばかりにまたこたつに潜っていくところである。猫か。猫だった。
「俺だって寒いんだけど」
愚痴をこぼしながら、消しゴムを取りに行くためにこたつを抜け出す。
しゃがみこんで消しゴムを拾い、ついでにと体を伸ばして凝り固まった肩や腰をほぐす。
窓から外を眺めると雪は止んでいて、雲間からは薄く日が差している。
「オア“ア”ア“~」
こたつから声が響く。お前が抜けた穴から風が入って寒いとの抗議だろうか。
「はいはい」
休憩は終わりだ。苦笑いしつつ、こたつに戻ることにした。