夢はバッタに食べられること!?/「バッタを倒しにアフリカへ」
バッタに食べられたいという夢を胸に、アフリカに赴いた著者。
フィールドワークと、現地の人々と送る濃密な日々をユーモアな語り口で綴る。
情熱を追体験できることも魅力だが、異文化交流記としても秀逸な一冊。
・著者、前野氏の魅力
アフリカでの研究の日常が、著者の1人称で綴られるのが本書である。
“100万人の群衆の中から、この本の著者を簡単に見つけ出す方法がある。
まずは、空が真っ黒になるほどのバッタの大群を、人々に向けて飛ばしていただきたい。
(略)
逃げ惑う人々の反対方向へと一人駆けていく、やけに興奮している全身緑色の男が著者である。 (まえがきより引用)”
バッタに食べられたい、その夢を叶えるためにアフリカに行って研究だ!
そんな人物が著者:前野ウルド浩太郎氏である。
ニコニコ超会議にも出演したとのことで、そちらで知った人も多いかもしれない。
この著者、とにかく前向きでめげない。
慣れないアフリカでの生活で、前途多難の四苦八苦。
日本の常識なんか通用せず、会う人会う人に振り回される。
それでも持ち前のバイタリティでガンガン乗り越えていくのである。
研究者の自伝なのでフィールドワーク中心に語られるが、エピソードの端々に見える筆者の人柄が何よりの魅力だ。
僕も本書を読んで、著者のファンになった。(僕、虫は嫌いだけど)
ぜひ、彼のファンが増えてくれたらうれしく思う。
・研究者のお仕事
昆虫学者とは何をするものなのか。
本書ではその一端に触れることができる。
“予測が立たない研究課題に対しては「無計画」で臨んだほうが対応しやすそうだ。
ただ、手当たり次第というのでは芸がない。
拘りポイントとしては、実験室でもできるような研究ではなく、現場でしかできない、地の利を生かした研究を心がけること。”
アフリカの地は予想外の事態が頻発する。その状況で、どう予測し、計画を立て、実行するか。
そうした柔軟な思考も丁寧に記述されており、実務がイメージしやすい。
研究職に興味を持つ人にも大いに参考になるだろう。
また、お金がなければ生活も研究もできない。そんな世知辛い現実についても、著者は詳しく述べている。
“博士になったからといって、自動的に給料はもらえない。
新米博士たちを待ち受けるのは命懸けのイス取りゲームだった。”
本書は、研究職のリアルを知ることができるという意味でも良書である。
・異文化交流
さて、本書は異文化交流記であるともいえる。
日本から単身アフリカに渡った著者には、毎日がカルチャーショックの連続である。
空港でも郵便局でも、賄賂を渡さなければ荷物がスムーズに受け渡されない。
値段は基本的に吹っ掛ける。
賃金も相場をごまかして高く掠めようとする。
研究の指示を出しても自分ルールで勝手に行動するスタッフ達。
だがこの程度でめげる著者ではなかった。
“そういうときに、便宜を図ってもらう特別な行為を日本人は編み出していた。そう、「お近づきのしるし」だ。”
まずは一気に懐に飛び込み、より良い交流の仕方を模索したのだ。
この作戦は大成功で、研究を進めるための重要な潤滑油として機能したのである。
ちなみに、お近づきのしるしとして筆者が使ったのは裏金ならぬ裏ヤギ。
ヤギはごちそうで、贈られた人は一様に笑顔を見せたという。お見事。
仲良くなると、現地の人たちは一転して協力的になってくれる。
こうなると、現地の人たちの人柄の良さが一気に見えてくるようになる。
賄賂だなんだという風習も悪意からではなく、よりよく生きるためのコツという感じで根付いたものなのかもしれない(その良し悪しは別として)。
こうしてみると、相手を理解して、それに合わせた行動をとるというのは、スケールの程度はあれど、日常での人間関係と根は同じものであると気が付く。
遠い外国と、日本。その違いを見ることは、実は根本にあるもの同じものを教えてくれるのだ。
【まとめ】
本書は筆者の人柄がにじむ文体で綴られ、読むうちにどんどん引き込まれていく。
読み終わる頃には著者(前野氏)の魅力にどっぷりはまり、ファンになっているだろう。
研究の面では、どういう活動をし、どんな問題を乗り越えているのか。その一端を垣間見ることができる。
異文化交流の面では、普段常識と思っていることとは違う価値観があること、理解とちょっとしたコツが良い関係を作り上げること、そしてそれは日常の人間関係でも実は大差ないのだということを気づかせてくれる。
なにがしかの研究職に興味がある人、海外に興味がある人、そしてなにより表紙のインパクトに惹かれた人はとりあえず、まえがきだけでも読んでみて欲しい。
そのままお買い上げ→読了まで一直線間違いなしである。
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